- 投稿日
- 2019年1月27日
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南海トラフ地震の被害想定は?被災地で起こることとその被害
今後30年以内に70~80%の確率でマグニチュード8~9の巨大地震が発生すると予想されている南海トラフ地震。最近では南海トラフに近い震源での地震も増えている印象で、ますます地震の切迫が気になりますよね。
南海トラフ地震では、東日本大震災の被害を大きく上回ると予想されています。しかし、『南海トラフ地震が起きるとどのような被害が出るか』『被災地域ではどんな生活が待っているか』ということを深く理解している人は意外と少ないのかもしれません。
今回は、いつか起きてしまう南海トラフ地震に向け本当に必要な備えをするために、被災地域ではどのようなことが起こり、どれくらいの被害が出てしまうのかを、南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの報告をもとに、見ていきたいと思います。
東日本大震災の被害を上回る南海トラフ地震
2011年3月11日、東日本大震災。
大きな揺れ、波に飲み込まれていく街並み。テレビから映し出されたあの映像は現実とは思えない、まるで映画のワンシーンのような光景に、強い衝撃と自然には太刀打ちできない人間の無力さの様なものを感じ、涙が溢れました。
死者・行方不明者合わせて約2万2千人。全壊家屋12万棟。日本中が悲しみで溢れた大災害でした。
それに対し、南海トラフ地震では約17倍の死者数合計は最大32万3千人、負傷者は62万3千人。また、倒壊及び焼失棟数の合計は、最大で東日本大震災の約18倍にあたる238万6千棟と言われています。
南海トラフ地震発生時の各地の震度と起こり得る被害
南海トラフでM9の巨大地震発生した場合、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7の可能性。また、隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れが数分間にわたって続くと想定されています。
静岡県 最大震度7
愛知県 最大震度7
大阪府 最大震度6強
兵庫県 最大震度6強
京都府 最大震度6強
三重県 最大震度7
徳島県 最大震度7
大分県 最大震度6強
宮崎県 最大震度7
この激しい揺れにより、家屋の倒壊や家具の転倒などにる死傷者が多く発生したり、家屋の倒壊などにより閉じ込められてしまうことが考えられます。
・家屋の倒壊
・家具や家電の転倒
・エレベーター内の閉じ込め
・揺れによる火災
・道路や線路の陥没や寸断、崩壊
・崖崩れや山崩れ
・鉄道や地下鉄などの脱線、緊急停止
・液状化現象などなど
電気・ガス・水道・ネット回線や電話回線などのライフラインは寸断され、交通網はストップ。各地で様々な事故も発生し、一瞬にして日本は大パニックに襲われます。
南海トラフ地震はわずか数分で津波が襲来
南海トラフ地震では大きな揺れのほかに、関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸の広い地域に10mを超える大津波が予測されています。
東日本大震災では最大波の到達が最短でも25分(釜石沖)だったのに対し、南海トラフ地震では震源域が陸に近いため、津波発生から到達までの時間がわずか数分と短く、津波による死者だけでも、最悪23万人と甚大な被害が予測されています。
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で1分、最大津波高20メートル【静岡県】
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で2分、最大津波高33メートル【高知県】
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で3分、最大津波高34メートル【三重県】
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で4分、最大津波高27メートル
【宮崎県】
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で16分、最大津波高17メートル
【大阪府】
地震発生後1メートルの津波が到達するまでに最短で59分、最大津波高5メートル
発生間もなく巨大津波が襲来。津波が川を遡上する可能性も。地震発生からわずか1分で1メートル以上の津波が押し寄せる地域があるということは、もしかするとまだ強い揺れの最中に津波が押し寄せる可能性もあるのかもしれません。
大阪や名古屋、東京などでは長周期地震動が発生
規模の大きい地震では、普段私たちが「地震だ」と感じるガタガタと揺れる周期の短い揺れに加え、『ぐら~んぐら~ん』と大きく長い時間揺れ続ける長周期地震動が発生します。この揺れは、東日本大震災の時に経験された方も多いのではないでしょうか。
当時、震源から約300キロも離れた東京新宿区の超高層ビルの最上階では、振れ幅が最大2メートル近くにも達する大きな揺れが10分以上続いたといわれます。私たちもテレビの映像でゆらりゆらりと揺れるビルの様子を見ましたよね。
南海トラフ地震では、震源域に近い大阪府や名古屋などの中部圏・近畿圏、さらには遠く離れた首都圏でも長周期振動が発生する可能性があります。
長周期地震動では、超高層ビルなどでは高層階になるほど揺れは大きくなり、固定されていない多くの家具や家電が転倒し、キャスター付きのものは大きく激しく移動するなど、私たちの命を脅かす危険な凶器と化してしまいます。
南海トラフ地震では被害も地震発生後もすべてが『想定外』!?
南海トラフ地震は、超広域にわたる被害が予想されるため、東日本大震災や熊本地震などの大地震で私たちが見たり経験した常識の様なものは通用しない可能性があります。つまり、被害も地震発生後のことも、すべてのことが『想定外』となってしまうこともあり得るのです。
例えば今までの震災では、地震発生後に被災地域の人命救助をしてもらえたり、各地域で避難所が開設され支援物資や給水支援を受けることがほぼ『当たり前の支援』として受けることができました。
しかし南海トラフ地震の場合、あまりに広域で同時多発的に起きる様々な事態に、政府や自治体、公共団体による支援の態勢が整わず、『十分な支援を受けられない恐れもある』ことを頭に入れておいた方が良いのかもしれません。
南海トラフ地震の被害想定
いつか起きてしまう南海トラフ地震に向け、本当に必要な備えをするためには、被災地域ではどのようなことが起こり、どれくらいの被害が出てしまうのかを知らなければいけません。予想されている南海トラフ地震の被害想定の全体像を見ていきましょう。
死者数
最大32万3千人(東日本大震災の約17倍)
津波による死者だけでも最悪23万人
負傷者数
最大62万3千人
倒壊及び焼失棟数
最大238万6千棟(東日本大震災の約18倍)
さらに、家屋の倒壊・家具や家電の転倒などで、自力で逃げられなくなる脱出困難者は31万1千人と予想されています。
・家屋の耐震化
・家具や家電の固定
・感電ブレーカーの設置(通電時の火災防止のため)
・津波避難ビルや避難所の確認
・家族との安否確認手段、集合場所の相談
など
ライフラインの被害想定
停電
電力施設の被災や供給が不安定になり、大規模な停電が発生。
地震直後 2,710万軒
1週間後 88万軒
東海、近畿、四国では約9割が停電すると予測されています。
・信号機の使用不可で交通がマヒ
・鉄道や地下鉄などの交通機関がストップ
・バスも信号機の停止で安全が保てないためストップ
・店頭では現金のみの使用
・冷蔵庫やテレビなど家電の使用不可
・コンビニなど店の営業停止
・電子機器の充電不可
・ランタンや懐中電灯など明りのとれるもの
・電池や電気を作り出すもの
・ラジオなど、テレビ以外から情報入手する手段
・現金
・予備バッテリーの準備
特にオール電化住宅では、電気コンロが使えないため料理だけではなく、お湯を沸かすことすら出来なくなります。必ずカセットコンロは備えておきましょう。
都市ガス
地震直後 最大180万戸で使用不可
1週間後 160万戸
1ヶ月後 50万戸
被害が大きい地域も6週間で大部分の供給が再開される見通し
・カセットガスコンロ
・予備のカセットガス用ボンベ
断水
水道管の破損や浄水場の被災等で断水が発生。
地震直後 (断水人口)3,440万人
1日後 2,840万人
1週間後 1,740万人
1ヶ月後 460万人
これだけの人が水を使えないことに対し、給水車は日本全国から集めても約1,000台と、圧倒的に給水車が不足します。また、道路状況によっては給水車が行くことすらできない地域が発生すると予想されます。
・給水車の不足
・飲料水の不足
・給水車が来ない地域も
・飲料水の備蓄
・給水場所の情報
・給水タンクや給水袋の備え
下水道
下水処理場の被災などにより被災地域の2~9割で下水道の使用ができず、トイレの利用に影響。
地震直後 最大3,210万人
1週間後 230万人
・簡易トイレの準備
・汚物の匂い対策
固定電話・携帯電話・インターネット
固定電話回線や携帯電話基地局の被災で使用不可。通話できてもネットがつながらない場合も。
固定電話 地震直後、最大930万回線が通話不能
携帯電話 被災翌日で8割の基地局が停止
・通話不可、ネット不可となり、情報入手が困難に
・家族の安否確認ができない可能性
・家族との連絡手段はSNSなど複数準備
・連絡をとるべき人の電話番号は携帯以外にも記入し持ち歩く
・子どもに公衆電話の場所や使い方を教えておく
・公衆電話用に10円玉を持ち歩く
・災害伝言版の使い方を確認しておく
・スマホの省エネモードにする方法を確認しておく
・予備バッテリーを複数準備
交通施設被害
道路
揺れや津波による道路の被害で、消火活動、救命・救助活動、ライフラインの応急復旧、物資輸送などに著しい支障が生じる可能性。
空港
中部国際空港、関西国際空港、高知空港、大分空港、宮崎空港は津波で浸水。
高知・宮崎 5メートル程度
関西 3メートル
中部・大分 2メートル
生活への影響
帰宅困難者
平日正午に地震が発生した場合、外出先にいる人は京阪・中京都市圏内で合計1060万人。建物の倒壊や火災、交通網のマヒなどにより、自宅に帰ることができない『帰宅困難者』が多数発生。
中京都市圏 最大400万人
・会社(外出時)に帰宅困難を想定した防災グッズ
・会社から自宅までの徒歩移動用地図
・会社内に留まるための防災グッズ
避難者
家屋の倒壊、断水や停電の影響で、避難所には多くの避難者で溢れます。
地震から1日後 700万人
地震から1週間後 950万人
1ヶ月後 880万人
また、避難所のキャパシティを超える避難者が発生するため、様々な『想定外の事態』が発生します。
・避難スペースや仮設トイレなどの確保が困難
食料や飲料水
食料や飲料水は圧倒的に不足すると予測され、その不足状態は数日間続くとみられています。
・飲料水 地震後 3日間合計で最大4,800万リットル(1人一日3リットルとして)不足
被災地域やその近郊(震災発生による備えの危機感から日本中という可能性も)での買い占め、道路の渋滞や寸断で配送ができない、保管スペースの不足、物資が届いても効率的に配分ができないことも想定されます。避難所でも届けられる物資に偏りがあったり、陸の孤島状態で全く物資が届かない地域が出てくる場合もあるかもしれません。
・食料や飲料水の備蓄
病院
地震によるケガ人が同時多発的に発生する一方で、病院医師や看護師も被災し不足状態となるので、十分な医療は期待できません。
・断水や停電で人工透析が受けられなくなる場合も
・応急処置のできる救急セット
・常備薬は多めに準備
その他
エレベーター内の閉じ込め
2万3千人
被災や停電などで最大4万1900台のエレベーターが停止。古いものだとエレベーターが落下する場合も。救出に半日以上かかる恐れがあります。
孤立集落
道路の寸断などで救助や救援活動が遅れ、物資不足が発生。固定電話や携帯電話・ネット通信が使用不可になり、情報伝達も困難になる可能性がありますす。
・家族との安否確認手段を複数準備
・備蓄品を多めに用意
まとめ
今回はいつか起きてしまう南海トラフ地震に向け、本当に必要な備えをするために、被災地域ではどのようなことが起こり、どれくらいの被害が出てしまうのかを見てきました。
頭では「南海トラフが起きると日本は大変なことになってしまう」とわかっていたつもりでしたが、改めて数字ににおこし、文字にしてみると、被害の大きさにがく然としてしまいます。
本当に津波から逃げられるのだろうか。家に潰されず、生き延びられるのだろうか。生きていたとしても食料や水が不足しているのに大丈夫だろうか。。。そんなふうに考えた人も少なくないと思います。
でも、地震を止めることはできません。
南海トラフ地震のことを考えるだけで怖くて仕方ないですし、不安になる人も多いかもしれませんが、結局怯えていても何も変わりません。今、私たちにできることは、やっぱり『もしもの時のために備えること』だけなんですよね。
これは南海トラフ地震の被害想定地域以外の方も同じです。日本ではどこでどんな地震が起きてもおかしくありません。断層があってもなくても地震は発生しています。
これまでの歴史の中で、南海トラフ地震の前には日本各地で大きな地震が頻発しています。南海トラフから離れているからと言って、安心できるということではないんですね。どんな所に住んでいても備えは必要ですし、きっと備えは、もしもの時の安心材料になると思いますよ。
南海トラフ地震発生時にどのようなことが起きるのかを、わかりやすく解説した政府の動画があります。南海トラフ地震でどんなことが起こるか文字だけじゃ想像がつかないという方は、一度見てみるのも良いかもしれません。